- ダイエットに思うこと -

 
    私はデブである。
 通りすがりの人に降り返られるとか、飛行機のトイレでお尻がつかえてしまうというほどではないが、お世辞にもやせていると言われたことはない。高校の頃はまだよかった。当時はそれでも「ややぽっちゃり気味」で済まされたからだ。しかし、それから10年以上たった今では、身長が変わっていないにも拘わらず恐ろしいことに体重は20キロ近く増えてしまったのである。理由はいたって単純明快、運動が嫌いなくせに、牛の様によく食うからである。(あ、牛はそれでもベジタリアンだけど。)いまだかつてワリカン負けという体験をしたことはないし、私よりよく食べる女性と出会ったこともない。

 太っていて得をしたことはほとんどないが、辛い思いは数え切れない。まずは流行りの服が似合わない。Lサイズショップでしか洋服が買えない。多少きつめでも無理して着るものだから、本人そのつもりはないのに今は昔のボディコンをいまだに実践している時代錯誤の人と思われてしまう。夏は汗をダラダラかき見た目にも暑苦しい。商品が所狭しと置かれている薬局などではうっかりお尻で品物を落としてしまう。
 あれは数年前の会社の健康診断のとき。集団検診で体重や身長測定を含めた検診を受け、最後に診断結果をもらったとき、何故か他の人はもらってないのに私だけピンクの紙をよぶんにもらったのだった。果たしてそれは、「肥満防止セミナー」の参加のおすすめであった。肥満度が一定の度数を超えている人にだけ配っていたのだろう。――― 悲しかった。
 一度でいいから、「あなたって折れそうね」とか、「もう少し食べたほうがいいわ」とか言われて見たい。しかしいまだにバイキングあらしの異名はすたれない。

 そういうわけで、ダイエットに挑戦したこと数え切れず。しかし、成功してなおかつ持続したためしはない。女性週刊誌の後ろの方にはありとあらゆるダイエット製品の宣伝が出ているし、薬局にもいろいろなダイエット商品が並んでいる。しかし、そういうものにトライしてみたことはあまりなく、とにかく意を決したら食べない、私のやり方はそれだけである。
 「それだから無理がたたってリバウンドが来るんだよ、」 そう言われるのは百も承知である。しかし元来めんどくさがりなので、一日に何錠も薬を飲むとか、何かに従って食生活をコントロールするとか、カロリー計算するとかいうのがまどろっこしいのである。そんな私に、ダイエットするならこれがいい、とか、それじゃだめだ、とか言う人は掃いて捨てるほどいる。太ってる人やせてる人成功した人しない人老若男女ひっくるめて、ダイエットに関する自分のセオリーを一席ぶつ人が後を絶たないのはどういうことか。

その1.無責任にダイエットを否定する人
これはだいたいおばさんに多い。そういう人に限って会社でお菓子を配るのが好きである。  「あ、私ダイエット中なので、せっかくですけど結構です。」
そう言ったが最後、
「あーら!何いってんのよ、若い人はぽっちゃりしてたほうが健康的でいいのよ!!ほほほほほほほほ」(あのう…私肥満度20なんですけど…)
そうして見るからに胸焼けしそうな巨大な饅頭を人の机の上に満足げに置いて去っていく。
こういう人には無理に逆らわないほうがいい。
 「ほんとにいらないんですっ!」
などと言うと、可愛げがないといって陰口を叩かれるからだ。しかし、あるとき貝の珍味みたいなのを会社で年配の人からもらった先輩が、
 「まあ〜おいしそう!ごちそうさまで〜す!!」
と言ってもらっておきながら、そのおばさんが満足げに去ったあとに、
 「ふん、気持ち悪い。」
と言ってさっさとごみ箱に捨てていたのを見たときは、くれた人が気の毒だったけど…そういうウラオモテのある人にはなりたくないけどね。

その2.自分の信ずる方針をを強行に主張する人
これもおせっかいである。無理な絶食はともあれ、ダイエットなんていろんなやり方や説があるのだから、人の勝手だと思うのだが。これもおばさんに多い。それもどういうわけか太ったおばさん。
「え?ごはん食べないようにしてる?だーめだめそれじゃ。いい?白いごはんはどんぶり飯を三食食べてもいいのよ!(そんなわけあるかい!)あなた、そう言ってサンドイッチとか食べてるけど、そのタマゴサンドこそくせものよ!マヨネーズってカロリー高いのよ!それに、卵はコレステロールの塊よ!そんなの毎日食べてたら、体に悪いわよ!それと、果物ならいいと思ってるんでしょう!だめだめ!果物は一番よくないの!糖分が高いから!云々…」
(そうは言っても、なにも西瓜をまるごと食べようってんじゃないんだし…それにあなた、さっき羊羹一本食べてたじゃない…)

その3.人の挫折を必要以上にうれしがる人
これも腹立つ。
「あーらネコガワラさん、あなたダイエットやめちゃったの?そんなとんかつ弁当とかおいしそうに食べちゃって。だから言ったじゃないの、夜ご飯抜いたりしちゃだめだって。いい?やせるには無理なく栄養のバランスを考えてしかも運動と併用しないとだめなのよ。そんなんじゃかえってどんどん太るわよ。ほほほほほ」
(人の不幸がそんなに楽しいのかい。ほっといてっっ。)

暑さ寒さも彼岸までとはよく言ったもので、ここにきてすっかり秋風が吹き始めた。そうして何を食べてもおいしい食欲の秋の到来である。マロンパフェが、タン塩が、ビビンメンが、すき焼きが、生春巻きが、味噌ラーメンが、そうしてホテルのオータムスペシャルバイキングが私を呼んでいる…
ああ、拒食症になりたい。


ダイエット 空腹だまして床につく 牧場の牛にかぶりつく夢 by 猫河原 寿

 
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