- 喫煙の呪い(その2) -

 
はてさて。
前回の原稿から2ヶ月が経過した。
禁煙を開始した昨年9月25日からすでに4ヶ月が経とうとしている。
なんと、禁煙は続行している。
爆食のほうはというと…・
ひととき爆発していたが、その後12月のパーティーシーズンを経て、暴飲暴食で胃を酷使した結果、遂に胃腸がストライキを起こし、ダウンしたまま新年を迎えた。
よって、胃腸様のお怒りが収まるまではごきげんを伺いながら遠慮がちに飲み食いする日々が続いている。
やや暴力的だが、結果的にはいい傾向としておこう。

これで前回の失敗を乗り超えた、と言っても大丈夫だろう
食欲も、酒量も、少しずつ安定している。

ああ、遂に!
遂に!ウン十年ぶりに私はノンスモーカーに戻ったと言えましょう!
(ネコガワラ、感涙にむせびなく。)

さて。
禁煙に成功した人なら、その「移行過程」において誰でも体験することがある。
まずは…・
だんだんと、他人の煙草の煙に敏感になる。
やがてそれがイヤになるかならないかは、二手に分かれるのだが。
私自身、喫茶店では禁煙席に座るようになった。
ある日愕然としたのは…
以前から昼休みといえば行き付けの場所だったコーヒーショップ「D」で昼食をとっていたとき、モクモクの煙草の煙に、初めて辛さを感じた。ショックだった。
禁煙席がとれないと、モクモク覚悟で喫煙席に座ることになる。
次第に、足が遠のく。
あんなに好きな場所だったのに。(っていうのは、気兼ねなく煙草が吸えたからなんだけどね。えへへへ。)
さようなら…・私の「D」。(涙)
そしてそれと相反して、今まで嫌いだった、全席禁煙の「S」と少しずつ仲良くなる。
前は…「ふん。」と思いながら、たまにはテイクアウトでコーヒーを買ってやることもあった。
最近は安心して中でお茶するときがあるのだから、変われば変わるものだと思う。

やがて、匂いや味覚に敏感になる。
私のケースでいえば、ワインの香りや味を以前よりずっと楽しめるようになった。

喫煙時代から、いやだなあと思っていたことがある。
なにせ喫煙というものは中毒なのであるからして、やめろと他人から言われたからといってそう簡単にやめられるわけではない。
にも関わらず、人はやめろと言う。
迷惑だからやめろ、マナーを守れ。それはもっともだ。
でも、喫煙自体を否定されるのはよけいなお世話だった。

もっといえば。
非喫煙者から言われるなら、甘んじて批判を受けよう。
しかし。下記の人たちからの圧力、いやがらせには耐えがたいものがあった。
1. かつて喫煙者だったが今はやめた人。鬼の首をとったように、偉そうな態度で喫煙者を見下し、いたずらに禁煙を迫る。
2. 自分も喫煙者なのに、1日3本しか吸わないからといって、1日に一箱吸う人を責めたてる人。これは本当にバカ者以外の何者でもない。
友人に上記1.の行動をとる人がいた。
私はどんなに「非人間的な扱い」を受けたかわからない。
しかし。
数年後、彼女はまた喫煙者に舞い戻った。
そのときに私はあえて責めることはしなかったけれど。
(バーカ。)

これを読んでいるみなさん。
マナーの悪い喫煙者は、断固として糾弾しましょう。
けれども、あなたの周りにいる喫煙者の喫煙自体をやめさせることはまず不可能だと思ったほうがいいでしょう。
人に言われてやめられるくらいなら、彼らは何年も何十年も吸い続けるはずがありません。
マナーは注意して直すことも出来ますが、喫煙は無理なのです。中毒なのですから。

しかし禁煙に成功する人も世の中にはいる。
ニコチンパッチやら、ニコレットやらを使いながら苦肉の策でやめる人々もいれば、いとも簡単にやめる人も。
私の場合は、今考えてみると後者のほうだったと思う。
では何故、瞬間的に非喫煙者になれたのか?
私の場合、それは、「暗示から醒めたのだ」と理解している。
長年、私は暗示にかかっていた。
喫煙をしないといてもたってもいられない、という暗示に。
寝ているときを除いてそれはいつもだった。
風邪を引いて喉がヒリヒリに痛んでいても、私はたばこを吸った。
喉を痛めつけて、結核患者のような咳をして、たばこを吸った。
それが自己暗示のせいだったと言わずして、どう理由づけが出来よう?

最後に。
私は他人に禁煙を勧めることだけはすまいと思っている。
何故なら、それがいかにうざったいか、元喫煙者として痛い程わかるからだ。
マナーを守っている喫煙者を責めるのも、よくない。
喫煙者には喫煙者の権利があり、それは、「だから他人に迷惑をかけてもいい」という事とはちがう。
多くの喫煙者はすでに感じている。もはや自分たちの時代は去ったことを。
外国の空港で、ガラスばりの喫煙室で、空調のない部屋の、白く濁った空気の中で煙草を吸い、外からはまるで動物の檻をながめるようにして非喫煙者たちが哀れみと軽蔑の入り混じったまなざしで通り過ぎていく、その意味を。

その一方で。
禁煙に成功した人たちは、「こちら側の世界」に来た喜びを静かに感じている。
肺癌やその他の病気に罹患する確立は減っていくだろう。
そして何より、あの「煙草を吸いたいというストレス」からの解放。
さらに、世の嫌煙者の人たちから後ろ指をさされることはもうない。
禁煙、バンザイ。


2003年1月

 
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